研究レビュー 質的研究の10年(清水睦美・内田良)

1Q84 BOOK3読んでて更新が遅れました。あとアルバムひたすら聴いてたり。
村上作品は読んでるうちに自分の遺伝子が組み変わってく(?)といったら大袈裟かもだけど、読む前の自分とは違う自分になってるような読後感が好きです。ぐいぐい読ませるし。
というか本に限らず音楽とか映画とかあらゆる作品で感動したりいいなって思えるものって、自分の思考なり世界観なりの変容をもたらすものなんでしょうね。現象学ぽい。
誰か言ってそうだな〜と検索してたら、
豊かな文学的感動をよびさます授業の構想と指導
―文学的感動の“仮説的構造モデル”構築への試みー
森畑敏昭
http://www.naruto-u.ac.jp/kyozai/toukei/d/main_5_1.html
というのが出てきました。興味と近いのでまたここにも書くことになるかも。
興味と近いと下手なこと言えないなって思って沈黙してしまいがちなんですが、ダメだなと反省。。。この前のゼミもそんな感じになってしまった・・・
前置きが長くなりましたが、最近質的研究についていろいろな講義で扱われているので、概観してそうなものを探してみました。

清水睦美・内田良(2009)研究レビュー 質的研究の10年ー『教育社会学研究』を中心にー教育社会学研究84,pp103-115

  1. はじめに

先鞭をつけた北澤・古賀以来の1997年〜2008年の『教育社会学研究』。
221本の論文のうち、観察記録、インタビュー等が一部分でも参照され具体的に位置づけられている74本を対象とした。

  1. 問題関心はどこからくるのか

イギリスを中心とした「新しい教育社会学」を標榜する研究潮流の影響による。
学校の内部過程を対象とし、教育知識の配分とカリキュラム構成、教師と生徒の相互作用など、いわゆるブラック・ボックスに着目した研究が積み重ねられる。
また、新しい動き(高校教育改革等)に注目してその位置づけに取り組む研究も。
→質対量論争のもとで問題視された、質的調査の実証性に拘っているところに共通点あり。しかし、その傾向は主流ではなくなってくる。

  1. 研究領域は、どのように広がり、どのように深まるのか

ニューカマーを対象とした研究が、質的データを用いた実証研究の様相を呈して始まる。
そのなかで実証性とは一線を画した研究も。児島(2001)は先行研究において受動的に描かれているニューカマーの子どもたちをそれに対抗する諸力を持つ者として描き直す=研究者としての明確な立場がある。
→これまでに蓄積された研究によって醸成されてきた研究対象に対する固定的な分析視角を相対化する潮流はニューカマー研究に限らない。
また、理論化された分析枠組みを用いて質的データを集めることで実践的な問題提起をする方向性もある。

  1. 構築主義の影響

構築主義の系譜
「社会問題をめぐる系譜」「物語叙述をめぐる系譜」「身体をめぐる系譜」それぞれの位置にある論文を紹介。構築主義や臨床研究の潮流はフィールドにおける知の自明性を問い直し、知がいかにして立ち上げられていくのかを追究する動きを生み出している。

  1. 報告のなかの調査者

調査者と対象者が積極的に影響を与えあう可能性は、記述されない限り明らかにならない。
調査者の立ち位置を次のように分類。
(1)「社会科学」の調査者
調査者と対象との相互の影響について、具体的には言及しない。
(2)関わりを顕在化させる調査者
調査者と対象者との相互の影響について、具体的に言及する。
a)関わりを見せる調査者
相互の影響を具体的に記述するものの、その影響がデータや分析のなかにどう反映されているかについては保留の態度をとる。
b)関わりを資源化する調査者
相互の影響について積極的に触れる。データや分析の提示において、影響が一つの重要な資源となっていることがわかるよう明記する。

  1. 関わりを顕在化させる調査者

■関わりを見せる調査者
自身の立場を自覚し記述することで、それを通してデータが解釈されるべきであることが意図される。
■関わりを資源化する調査者
関わりをデータの随所に書き記し、関わりがもつ影響を積極的にデータのなかに表現しようとする。
清水(1999)は自身が再構成したインタビュー記録を対象者に読んでもらいクレームを出してもらう作業を経て、対象者がもっているコードを顕在化させるという方法をとる。
現場との協同を研究活動のなかに組み込む「アクションリサーチ」は、そもそも調査者が最初から一つの資源として調査研究のプロセスに明確に位置づけられており、関わりが報告のなかに積極的に表現されやすい。
清水(2006)は現場に対して研究成果、報告の「再埋め込み」を行い、こうした一連の営みをまた一つの報告としてかたちにし、対象者との相互作用関係の展開過程を記述する。
倉石(2007)は調査者と対象者が積極的に影響を与えることを記述する以上に、調査をとおして自身が影響を与えられたこと、感じ取ったことを記述する。徹底した自己言及を行うという方法であり、こうした自分自身を研究の対象に据える方法は「自己エスノグラフィー」につながる。
■関わりの資源化はどこに向かうのか
アクションリサーチの目標は、現場の事態を積極的に改善すること、あるいは研究成果のオーディエンスが自ら現場を変革していくことに向けられる。
■方法と内容の緊張関係
白松(2004)は「何を知ったか」を明らかにすることを目的として、そのための手段として「いかにして知ったか」の記述を用いる。Holstein and Gubriumは従来のインタビューが内容を焦点化してきたのに対して内容だけでなく方法にも注目すべきとして、インタビュアーが意味の産出に関わっていることを積極的に認めそれを分析に組みこむアクティブ・インタビューを提唱。方法と内容のバランスをとることがねらい。
このバランスをとり、報告のなかに表現することが今後質的研究に求められる一つの課題となるのではないだろうか。

感想

(時間がきたのであとで書きます。研究すること自体が持つ対象への影響といった倫理的側面やアクションリサーチに関心を持っていたので興味深かったです。)